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2026/04/13
柏崎の自然と共生するまちづくりを考える
- 里山日記
~ 柏崎日報連載記事のご紹介 ~
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柏崎・夢の森公園の自然共生サイト登録を機に、柏崎地域全体の自然と共生するまちづくりに考えていきたい。一緒に考え行動していただけるみなさんに向けた公園からのメッセージや、マスコミで取り上げられた記事、生き物情報などをまとめています。随時情報を更新していきます。
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柏崎日報さんに、自然共生サイトの登録について取材していただきました。
出典:柏崎日報社(8年4月7日付)

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ギフチョウ

早春、まだ雪の気配が残る里山で、ひらひらと舞う一頭のチョウがいます。ギフチョウ。淡いクリーム色の翅に黒い模様、後翅には橙色と青の斑紋をもつ、美しい日本固有のチョウです。かつては本州各地で見られ、春の訪れを告げる存在として親しまれてきました。
学名は Luehdorfia japonica。アゲハチョウ科に属し、年に一度だけ発生する「一化性」の昆虫です。成虫は春の短い期間だけ現れ、産卵を終えると姿を消します。幼虫はカンアオイ類(ウマノスズクサ科の植物)を食草とし、その限られた環境の中で成長します。
現在、このギフチョウは各地で個体数の減少が報告されており、地域によっては絶滅が危惧されています。その背景にあるのも、やはり里山の変化です。
ギフチョウが生きるためには、明るい落葉広葉樹林と、その林床にカンアオイ類が生育する環境が必要です。かつての里山では、薪炭利用や落ち葉かきなど、人の営みが林内に適度な光をもたらし、多様な植物が共存する環境が保たれていました。しかし、利用されなくなった里山は暗く密な森へと変化し、林床の植物相も大きく変わっていきます。食草であるカンアオイが減れば、ギフチョウもまた姿を消していきます。
一方で、開発や道路整備による生息地の分断も、この小さなチョウにとっては大きな影響を与えます。わずかな環境の違いに支えられてきた命は、人の暮らしの変化とともに、静かにその居場所を失ってきました。
春の光の中を舞うその姿は、決して遠い自然の象徴ではありません。かつては人の暮らしのすぐそばにあった風景の一部でした。ギフチョウは、私たちが失いつつある里山のあり方を、そっと映し出しているのかもしれません。
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キキョウ

秋の七草のひとつとして知られるキキョウ。紫色の星形の花を咲かせるこの植物は、かつては日本各地の里山の草地で、ごく当たり前に見られる存在でした。お盆や秋の訪れを感じさせる風景の中に、静かに佇んでいた花です。
キキョウの学名は Platycodon grandiflorus。キキョウ科キキョウ属に属する多年草で、この属に含まれる種は世界でもこの1種のみという、分類学的にも特徴的な植物です。東アジアに広く分布し、日本では古くから観賞や薬用としても利用されてきました。
しかし現在、このキキョウは環境省のレッドリストにおいて絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されています。かつて「どこにでもあった花」が、なぜこれほどまでに数を減らしてしまったのでしょうか。
大きな要因のひとつが、里山の環境の変化です。キキョウは、日当たりのよい草地や、定期的に人の手が入ることで維持されてきた半自然草地に生育します。かつては薪や草を得るために、草刈りや火入れといった管理が日常的に行われていました。しかし生活様式の変化により、こうした営みは急速に失われました。手入れされなくなった草地はやがて樹木に覆われ、キキョウが生きるための環境は静かに消えていったのです。
皮肉なことに、「自然が豊かになる」と思われがちな放置は、キキョウのような植物にとっては生きにくい環境を生み出します。人と自然が関わりながら保たれてきた里山の風景こそが、この花の居場所だったと言えるでしょう。
かつて当たり前だった風景の中にあった一つの花が、いまは守るべき存在になっている――キキョウは、そのことを私たちに静かに問いかけています。自然を守るとは何か、人が関わるとはどういうことか。その答えは、遠くの特別な場所ではなく、かつて身近にあった風景の中にあるのかもしれません。
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モリアオガエル

初夏、静かな水辺の上に張り出した枝に、白い泡のかたまりが見つかることがあります。モリアオガエルの卵塊です。水面ではなく木の上に卵を産むという独特の習性をもつこのカエルは、日本の里山を象徴する生きもののひとつです。
学名は Zhangixalus arboreus(旧 Rhacophorus arboreus)。アオガエル科に属する日本固有種で、成体は鮮やかな緑色をしています。繁殖期になると、池や田んぼの上に張り出した枝を選び、泡状の卵塊を産みつけます。孵化したオタマジャクシは、雨とともに下の水面へと落ち、そこで成長していきます。
一見すると豊かな自然の中でたくましく生きているように見えるモリアオガエルですが、その生息環境は非常に繊細です。産卵には、水域とそれを取り囲む樹林、そして水面に張り出す枝という条件がそろう必要があります。
かつての里山では、田んぼやため池が維持され、周囲の林も人の手によって適度に管理されていました。しかし、耕作放棄や水辺の改修、護岸のコンクリート化などにより、水と森がゆるやかにつながる環境は急速に失われつつあります。枝が水面に届かない、あるいは水そのものがなくなる――そうした小さな変化の積み重ねが、このカエルの繁殖の機会を奪っていきます。
また、水辺の減少や分断は、成体が移動する経路にも影響を与えます。森と水辺を行き来する生活は、連続した環境があってこそ成り立つものです。そのつながりが断たれたとき、モリアオガエルは静かに姿を消していきます。
木の上に残された白い泡は、一見すると不思議で美しい光景です。しかしそれは同時に、水と森が健やかにつながっている証でもあります。モリアオガエルは、かつて当たり前にあった里山のつながりが、いまも保たれているかどうかを、静かに教えてくれているのかもしれません。
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サシバ

※夢の森公園にある剥製の画像です
春、南から渡ってきた一羽のタカが、里山の上空でゆったりと円を描きます。サシバ。「ピッ、クイー」と鋭い声で鳴きながら滑空するその姿は、田んぼや雑木林が広がる風景の中で、かつてはごく当たり前に見られるものでした。
学名は Butastur indicus。タカ科に属する中型の猛禽類で、日本には繁殖のために飛来する夏鳥です。秋になると東南アジアへと渡り、季節ごとに長い距離を移動します。主にカエルやヘビ、大型の昆虫などを捕食し、食物連鎖の上位に位置する存在です。
サシバが生きるためには、開けた水田と、その周囲に広がる雑木林が一体となった環境が欠かせません。水田は餌となる生きものを育み、林はねぐらや営巣の場となります。つまり、モリアオガエルのような両生類や、多様な小動物が豊かに暮らしていることが、そのままサシバの生息を支えているのです。
しかし近年、サシバの生息環境も大きく変化しています。圃場整備による水路の直線化や乾田化、農薬の使用、耕作放棄地の増加などにより、餌となる生きものは減少しました。また、雑木林の手入れが行われなくなることで、営巣に適した環境も失われつつあります。
サシバは広い範囲を見渡しながら生きる鳥ですが、その暮らしは決して大きな自然だけに支えられているわけではありません。水田、ため池、林、草地――それぞれがつながり、人の営みとともに維持されてきた里山の風景そのものが、この鳥の居場所でした。
空を舞う一羽のサシバの姿は、豊かな生態系の象徴でもあります。その姿が見られるかどうかは、足元の小さな命がどれだけ守られているかにかかっています。サシバは、里山というつながりの広がりを、静かに映し出しているのかもしれません。
